『なぜ書くのか』を読んだ。
感想
Almost Heaven, West Virginia Blue Ridge Mountains, Shenandoah River
と、歌い出す歌があったな、と思い出した1。とくに日本語圏だと郷愁もたっぷりに歌われているあのウェストバージニアはかつて南部連合の一部だった。
黒人にとってそこはAlmost Heavenだったのだろうか。
今では大統領選から連邦議員、州政府、州議会まで全てを共和党が支配するウェストバージニアの今はAlmost Heavenなのだろうか2。
タナハシ・コーツはアメリカで黒人として生きるとはどういうことかを書いている人という印象があった。
本書は4章構成だが、3部構成と言って良い….という印象のある。
第1部(第1章)はスピーチであるが、ハッピーエンドの物語とは異なり、現実社会では暴力や悪が勝利することが多いことを示した上で、権力者が押し付ける「お前たちは間違っている」という基準を拒絶し、自分たちの視点で世界を検証し、独自の物語を語り直す必要があると論じている。
第2部(第2章、第3章)では貧困や格差は個人の資質ではなく、歴史書やメディアが構築した白人至上主義のシラバスによって維持されていて、学校教育もまた、知識より「従順さ」を教える場であった。アメリカの歴史を「自由の物語」とするか「虐殺と奴隷制の物語」とするかで、想像の根本が大きく違ってくる。
第3部(第4章)ではアメリカにおける黒人差別の構造(ジム・クロウ)と、イスラエルによるパレスチナ占領の構造(アパルトヘイト)に強烈な類似性を見出している。イスラエルという「ホーム」の建設は、単なる避難場所ではなく、軍隊や支配力を伴う力の獲得であった。それは他者(パレスチナ人)の排除の上に成り立っている。
こんな時代に、何を書くのだろう。
抑圧すらも正当化する虚構の大きな物語があるが、人はあくまで等身大なのだ。
そこには権力者が覆い隠そうとする不都合なものもある。
これを書き出すことこそがライターの使命なのだとライターの卵たちに説いている。
面白かった。